労働問題

November 12, 2005

「民法と労働基準法」考え方の差

【民法536条2項】
債権者ノ責ニ帰スヘキ事由ニ因リテ履行ヲ為スコト能ハサルニ至リタルトキハ債務者ハ反対給付ヲ受クル権利ヲ失ハス 但自己ノ債務ヲ免レタルニ因リテ利益ヲ得タルトキハ之ヲ債権者ニ償還スルコトヲ要ス

【労働基準法第26条】
使用者の責に帰すべき事由による休業の場合においては、使用者は、休業期間中当該労働者に、その平均賃金の100分の60以上の手当を支払わなければならない。

民法536条2項の考え方によれば、使用者の都合による休業に対し、労働者は賃金全額の請求権をもつことになります。

労務の提供が不可能となった場合、労働者は賃金を受ける権利を失いますが、それが使用者の責任ならば、賃金全額に相当する反対給付を請求できるということが規定されています。

労働基準法が平均賃金の6割補償であるのに対し、民法は全額ですから、一見すると労働基準法の方が弱いように思われます。

しかし

◎「使用者の責に帰すべき事由(帰責事由)」の範囲が違います

【民法の場合】
使用者の故意・過失、または信義則上これと同一視すべき事由と解されています。

【労働基準法の場合】
民法よりも広い概念であって、経営・管理上の障害による事由を含めて使用者の責に帰すべき事由に該当するとされています。

<例1>
親会社の経営難のため資材・資金の確保が困難となり休業した場合、民法では使用者の帰責事由になりませんが、労働基準法では帰責事由に含まれます。

【休業中にアルバイトで得た賃金はどうなるか】

労使協定で、休業中に他で働いて得た収入を休業手当から控除する取り決めがあっても、平均賃金の100分の60の部分は控除できません。

平均賃金の100分の60を超える部分については、アルバイトによる収入に応じて減額することもできます。

<例2> 平均賃金10,000円として
休業手当として6,000円支払われた場合は控除できません。休業手当として8,500円支払われた場合は2,500円までの範囲で減額可能です。

民法第536条第2項但書は「自己ノ債務ヲ免レタルニ因リテ利益ヲ得タルトキハ之ヲ債務者ニ償還スルコトヲ要ス」と規定しています。

民法の立場に立てば、アルバイト収入は返還し、反対給付として給料全額相当を受けることになります。これでは、アルバイト収入が100分の40以上になると、会社側にとって有利です。

<例3> 平均賃金10,000円として(民法の立場)

(1)アルバイト収入が2,000円の場合
 2,000円返還し10,000円受けますので、差し引き8,000円の収入になります。(会社は8,000負担)

(2)アルバイト収入が4,000円の場合
 4,000円返還し10,000円受けますので、差し引き6,000円の収入になります。(会社は6,000負担)

(3)アルバイト収入が5,000円の場合
 5,000円返還し10,000円受けますので、差し引き5,000円の収入になります。(会社は5,000負担)

つまり、アルバイト収入が4,000円を超えると会社負担は休業手当(6,000円)より少なくなり会社が有利になります。

民法第536条第2項と違って、労働基準法第26条は、休業手当部分(平均賃金の100分の60)の減額を認めていませんから、使用者がアルバイト収入を休業手当から控除することは許されないという考え方が確立します。

<例4> <例3>を労基法の立場で計算すると(休業手当6,000円として)

(1)の場合の収入は2,000円+6,000円=8,000円
(2)の場合の収入は4,000円+6,000円=10,000円
(3)の場合の収入は5,000円+6,000円=11,000円

平均賃金の100分の60を超える部分については減額が可能です。

<例5> 休業手当8,500円とすると2,500円まで減額可能

(1)の場合は2,000円+8,500円-2,000円=8,500円
(2)の場合は4,000円+8,500円-2,500円=10,000円
(3)の場合は5,000円+8,500円-2,500円=11,000円

となります。

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September 23, 2005

佐川急便、集配で「偽装請負」

佐川急便が荷物の集配業務で、実際には取引業者から労働者の派遣を受けながら、業務委託の形で下請けに出したように契約を結んでいたとして、今年2月に東京労働局から労働者派遣法に基づく是正指導を受けていたことが22日、わかりました。

こうした契約は「偽装請負」と呼ばれます。
東京労働局は業務委託ではなく、違法な派遣と判断したわけです。

【偽装請負】

契約上は業務請負であっても実態が人材派遣に該当するものをいいます。

職業安定法施行規則第4条によれば、 労働者を提供しこれを他人の指揮命令を受けて 労働に従事させる者は たとえその契約の形式が請負契約であっても

1.作業の完成について事業主としての財政上及び法律上のすべての責任を負う
2.作業に従事する労働者を、指揮監督する
3.作業に従事する労働者に対し、使用者として法律に規定されたすべての義務を負う
4.自ら提供する機械、設備、器材、若しくはその作業に必要な材料、資材を使用し又は企画若しくは専門的な技術若しくは専門的な経験を必要とする作業を行うものであって、単に肉体的な労働力を提供するものでない

以上4点、すべて満たさないものは労働者供給事業を行う者、すなわち派遣を行っている者とみなされます。

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August 17, 2005

退職金規程のない会社の退職金

10人未満の会社で就業規則などはなく、退職金は社長のポケットマネーにより、支払われていたなんて会社を時々見かけますが、最近は不況のためか、退職した社員に退職金を支払わなくなっています。

このような場合、該当する規程がないからといって問題がないとは言えませんので注意してください。

なぜなら、今まで退職金を支払っており、その事実を従業員が知っているようであるならば、それが職場の慣行と見られかねないからです。

そうなると、たとえ就業規則などに明確に規定していなくても、立派な職場の規則と判断される場合があります。(職場慣行の法的効力)

そのような事にならないためにも、たとえ10人未満の会社でも、退職金に限らず、職場の規則をしっかりと明確に定めておくことが望ましいでしょう。

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August 05, 2005

失業給付は退職金じゃない!

昨日の続きです。

社長は、失業給付を退職金だと思っている節があります。
勘違いしないでください!失業給付は退職金ではありません。

●失業給付が受給できるのは

ハローワークに来所し、求職の申込みを行い、就職しようとする積極的な意思があり、いつでも就職できる能力があるにもかかわらず、本人やハローワークの努力によっても、職業に就くことができない「失業の状態」にあることが条件になります。

ということは、ご質問の従業員は就職しようとする意思がありませんので、「失業の状態」にありません。つまり、失業給付は受給できません。

●なぜ会社都合退職にするの?

「自己都合退職」にすると、待機期間(7日間)+給付制限期間(3か月間)は支給されませんが、「会社都合退職」にすると、待機期間が満了した日の翌日から支給対象になります。

本人にとっては、会社都合で退職した方が失業給付が早く受給できるというメリットがあります。

では、会社が会社都合退職にするメリットはあるのでしょうか?
とんでもありません、デメリットばかりです。助成金によっては過去6か月に会社都合の退職がないという条件の付くものもあります。

退職する従業員のことを考えて、失業給付が早く支給される「会社都合退職」にしてあげたいという社長の温かい気持ちは理解できないわけではありませんが、間違っています。

本人には就職の意思がなく、離職理由も「会社都合退職」と、ウソの理由で失業給付を受給すると、不正受給となります。

【不正受給の罰則】 

 ~返還命令~
不正な行為によって支給を受けた失業給付の全て、または一部の返還を命じるというもの。この場合当該不正受給が事業主の虚偽の届出、証明によるものである時は、事業主に対しても連帯して返還が命じられる場合があります。

 ~納付命令~
不正に受給した額の2倍以下(返還命令とあわせ3倍返し)を返還させるというもの。

失業給付は退職金ではありません。

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August 04, 2005

自己都合退職と会社都合退職

会社を辞めた理由を訪ねると、明らかに会社の都合で解雇されたのに、「自分の都合で辞めた」と答える人が少なくありません。

何故?

1.「自己都合退職」にしないと、再就職に響く。
2.退職を勧奨されたにもかかわらず、「自己都合退職」を承知した。
3.「退職願いを書きなさい」といわれ、「一身上の都合」と書いた。
等々

「解雇と聞いて、『世間体が悪い』などと思い込んでしまう労働者もいますが、悪いのは、一方的に解雇する会社側です。

会社側からすれば、「会社都合退職」はデメリットこそあれ、メリットはありません。会社が「自己都合退職」へと誘導するため、労働者は「自己都合退職」を認めてしまうのです。

ところが、正反対の事例を質問されました。

【質問内容】

ある人からの質問です。

顧問先の会社より従業員の退職手続の連絡があったそうです。
社長の話によると、「この従業員は自己都合退職(年配者)なのだが、長年勤めてくれたので会社都合にして、早く失業保険がもらえるように手続してもらえないか。」と言うのです。本人は転職するつもりはありません。

続きは、明日。

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July 05, 2005

業務委託と雇用契約の違い

以前、「業務委託契約社員の活用」について書きましたが、今回はメリットと雇用契約との違いについてです。

●メリットとしては次のようなものがあります。

・年齢にしばられずに仕事を選びやすい。
・働く期間、働くペースを自分で選択しやすい。
・契約した仕事だけに集中できる。
・成果に連動して報酬を上げやすい。
・複数の企業と同時に仕事できる。
・仕事や顧客を自ら選択できる。
・定年がない。

●雇用契約との違い

業務委託で契約をするということは、社員やアルバイトなどの雇用契約とは異なり「独立した事業主と契約する」ということですので、労働基準法や社会保険に関する法律など、労働者を保護する法律は適用されません。

雇用契約者の場合は、業務の進め方を会社側が細かく指示したり、勤怠管理を行うなど会社側が一定の管理を行うことが前提になりますが、業務委託の場合は独立した事業主ですので、業務委託者の判断に任されるのが前提となります。

業務委託契約を締結していても、事実上の運用が「労働者」と見なされれば、社会保険の適用や労働基準法に従った労働条件の適用が求められますので気をつけてください。

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July 01, 2005

大学非常勤講師は「こま切れかけもちパート労働者」

【大学非常勤講師B子さんの例】

3都県7大学で法律学を教えている。
週9コマの講義で年収300万円弱。
移動だけで6時間かかる日もあり、講義の準備の時間も入れればフル回転。

非常勤講師は1年契約で1コマ当たりの年収は30万円が相場。複数の大学をかけもちする人も多い。1カ所あたりの勤務日数が少ないため、雇用保険や社会保険にも加入できない。健康診断も受けられない。

雇用の保障もない。少子化で大学も冬の時代。非常勤講師の48%が講座の廃止などで仕事を失った経験がある。授業の6割を非常勤講師でまかなう私立大がある。使い勝手のよい労働力への依存が、大学でも進んでいるのです。

「『完全失業』は正社員の特権。かけもちパートは常に不完全失業の状態に置かれている」とは、ある大学の非常勤講師組合委員長の話。

不完全失業では「生殺し状態」です。
ある意味「完全失業」の方が・・・?

雇用保険、社会保険のありがたさを感じます。

私?もちろん、雇用保険も社会保険もありません。
個人事業主ですから。

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June 30, 2005

失業が認められない?

【派遣社員Aの例】

派遣社員Aは2年続けた事務の仕事を突然失いました。社長の親族が入社するためです。「能力の問題じゃないから」と社長には言われましたが、納得いきません。

Aは失業給付の手続きをするため、派遣会社に離職票の発行を求めました。

しかし、ハローワークの指導で、派遣社員は契約が切れた後1カ月間は様子を見るため、すぐには離職票を発行しないというのです。

1カ月の間に、Aは一度だけ別の仕事を紹介され、断りました。自分のスキルに合わないと感じたからです。2カ月後届いた離職票には、離職理由として、「自己都合」の欄にチェックがされていました。

派遣先の勝手で失業したのに、なぜ?

失業給付は退職理由によって受け取れる時期が変わります。会社都合だと7日後ですが、自己都だと3カ月後です。派遣社員は次に紹介された仕事を一度でも断れば、「自己都合」と判断されるのです。

「派遣社員は派遣会社から仕事の紹介があるので、離職が即失業、とはいえない」というのが、厚生労働省の考えです。

不公平だと思いませんか?
派遣社員の増加とともに問題は深刻化しています。

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June 25, 2005

女性労働者が二極化

経済産業省は22日、「男女共同参画に関する調査」の報告書を発表しました。

能力・意欲の高い女性が実力を発揮する機会が広がると同時に、女性労働者の二極化が進行(「高賃金の正社員」と「非正規雇用者」が増加)していると指摘しています。

女性の勤続年数やキャリア志向の多様性に対応できるよう、個別管理や職種・処遇形態の多様化・柔軟化が必要だとしています。

【主な論点】
1.事業所内賃金格差が大きい職場は、大卒女性比率も女性管理職比率も高い。
→個々人の業績や能力に応じて処遇をするため、女性の活躍の場が与えられやすい。

2.年功度の大きい職場は女性雇用比率が高い。

3.育児休業取得率が高い職場は女性採用も女性管理職も少ない。
→育児休業取得者比率が高くても、年功度が大きい職場や事業所内賃金格差が大きい職場では、女性は活用されている。

4.正規雇用を増やす場合は男性が増え、減らす場合は女性が減る傾向がある。
女性雇用の場は、既存事業所の女性比率の上昇よりも、事業所新設による。

5.女性では非正規雇用が増加、男性では就業希望無業者が増加している。

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June 24, 2005

ニート、中学卒や高校中退者ほど高率

 仕事も進学もせず職業訓練も受けない「ニート」になる割合は、中学卒や高校中退者の方が、大学や大学院卒より高いことが、厚生労働省所管の独立行政法人「労働政策研究・研修機構」の調査で分かりました。

※「若者就業支援の現状と課題」(6月22日公表)

【15~34歳の男子がニートになる割合】
中学卒(高校中退者を含む)では9.8%
高校卒では3.6%
短大・専門学校卒では1.2%
大学・大学院卒では1.3%

【同じく女子の場合】
中学卒(高校中退者を含む)では8.6%
高校卒では2.3%
短大・専門学校卒では0.9%
大学・大学院卒では1.3%

男女とも高学歴ほどニートの率が低い傾向にあります。

【同機構の小杉礼子・副統括研究員のコメント】
就職機会は高学歴ほど多く、学校中退者にほとんどない実態を反映している。
正社員を減らし、パートやアルバイトに置き換えられる労働市場から、ニートは必然的に生み出されている。

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