労災保険

October 29, 2005

“パワハラ”自殺を労災認定

28日の読売新聞によると、大手道路工事会社「前田道路」の愛媛県内の営業所長が昨年9月に自殺したのは、上司からしっ責され続け、心理的な圧迫を受けたことが原因などとして、新居浜労働基準監督署は労災と認定しました。

所長は当時、上司から「会社を辞めろ」などと罵倒され、下請け会社への未払いの工事代金まで家計から穴埋めしたといいます。弁護団は「パワーハラスメント(職権による人権侵害)が原因と認められた異例のケース」としています。

弁護団によると、2003年4月に愛媛県西条市の営業所長となったが、昨年7月ごろから、契約料を発注元から減額されるなどして売り上げ目標が達成できず、四国支店に呼び出されて上司に厳しくしっ責された。

8月には、下請け工事代金が滞ったため、家の預金から150万円を引き出して業者に支払ったこともあった。しかし、営業成績は不振が続き、上司から「所長として能力がない」と約2時間責められるなどしたため、体重が8キロ減り、うつ病になったといいます。

9月に入ってからもしっ責は続き、休み明けの13日に、営業所敷地内で首をつって自殺。「怒られるのも言い訳するのもつかれました」などの遺書が残されていました。

以前、パワハラについて書きましたので参照してください。
http://jinjiplus.way-nifty.com/blog/2005/03/post_11.html

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September 24, 2005

労災保険未手続事業所は10割負担へ

厚生労働省は、労災保険の加入を拒んでいる事業所で事故が起きた場合に、保険給付額の全額を事業主から徴収すると発表しました。現行ではこうした悪質事業所の負担は4割で、大幅な罰則強化となります。11月から実施し、費用徴収に応じない場合は差し押さえに踏み切るといいます。

労災保険は業務中の事故などの際に一定の保険金を給付する制度です。社員のいる事業所すべてに加入義務があります。未加入でも労働者保護の観点から労働者や遺族への給付は出る仕組みになっています。

【費用徴収制度の運用強化の内容】

1.加入手続について行政機関からの指導等を受けたにもかかわらず、事業主がこれを行わない期間中に労災事故が発生した場合、現行の取扱いでは「故意又は重大な過失により手続を行わないもの」と認定して保険給付額の40%を徴収しているが、これを改め「故意に手続を行わないもの」と認定して保険給付額の100%を徴収する。

2.加入手続について行政機関からの指導等を受けていないが、事業主が事業開始の日から1年を経過してなお加入手続を行わない期間中に労災事故が発生した場合、「重大な過失により手続を行わないもの」と認定して、新たに費用徴収の対象とし保険給付額の40%を徴収する。

http://www.mhlw.go.jp/houdou/2005/09/h0920-1.html

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August 22, 2005

労災の判断基準

労働者が被災した事由が「業務上」か否かは、①業務遂行性、②業務起因性から判断されます。

【業務上】
作業の準備・後始末中の事故、作業中に用便や飲水に行く時の事故等も含みます。また、事業場内にいなくても、運転業務中の災害や出張中の災害は「業務上」となります。

【業務外】
休憩時間中や、事業場施設内での業務以外の行為中の災害は、その災害が事業場施設の欠陥によるものでない限り、「業務外」となります。

【過失があった場合】
使用者の過失(安全配慮義務違反)は労災認定要件となりません。また、労働者に過失(注意義務違反)があっても、上記①②の2要件を満たせば労災とされます。ただし、労働者に重過失がある場合には、30%の支給制限がされることがあります。

【使用者の法律上の責任】
①不法行為責任
労災保険の加入も使用者の義務となるため、未加入中の労災事故は不法行為責任となります。

②使用者責任
使用者に過失がなくても、仲間の労働者の過失によって労働者が被害を被る場合は使用者責任となります。

③工作物責任
事業場施設の欠陥から生じた場合は、使用者は工作物責任を問われることになります。

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July 29, 2005

業務中の過失割合100%事故

信号が赤で停止中、 車両Aに後続車Bが追突。
A:過失割合 0%
B:過失割合 100%

追突された側(A)に怪我人がいない場合、もしくは短い期間の通院で済む小さな追突事故では、人身事故ではなく物損事故として処理されるケースが多いようです。

自賠責保険、対人賠償保険は、人身事故に適用されますので、物損事故の場合は使えません。

では、追突した側(B)が怪我をした場合はどうでしょうか?

自賠責保険は交通事故による被害者の『最低限の補償を確保する』のが目的なので、保険金が支払われるのは対人賠償事故に限られています。被災者(B)に過失がある交通事故や自損事故には適用されません。

【労災保険が適用されます】

労災保険が使える業務上の事故の場合、自分の過失割合が
100%でも、治療費は全額、労災保険が補償してくれます。

労災保険は、被災者の過失責任を問わず給付が行われます(特別の事情がない限り)。被災者が一方的に悪い事故も増加しており、今日では労災を適用しないで通勤、業務災害の交通事故を処理することは不可能な状況にあると言えるでしょう。

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July 20, 2005

在籍出向者の災害補償責任は?

出向には、出向者の雇用契約を出向元の会社に残しながら出向先の会社で働く「在籍出向」と、出向元の会社をいったん退職して出向先の会社で改めて雇用契約を結ぶ「移籍出向」とがあります。

出向者に係わる災害補償責任は、出向の目的・出向契約の内容・出向者の就労の実態などによって、労働関係の所在を判断し決定することになります。

「移籍出向」の場合は、出向元事業主との労働関係が解消され、出向先事業主との間だけに労働関係がありますから、災害補償責任は当然に出向先事業主となります。

労災保険法の第3条第1項には「労働者を使用する事業を適用事業とする」と規定されています。

ここでいう「使用する」は労働関係にあるという意味に解されますので、出向者が、出向先の組織に組み入れられ、出向先事業場の他の従業員と同じ立場(ただし、身分関係及び賃金関係を除く。)で、出向先事業主の指揮命令を受けて労働に従事している場合には、出向先事業主と労働関係にあるとされるため、出向先事業場の労災保険を適用することになります。

つまり、給与が出向元事業主から支払われていても、出向者の指揮命令を出向先事業主が行っていれば出向先事業場の労災保険が適用になるということです。

給与の支払いを出向元、出向先どちらが行っているかは、直接労災保険の適用とは関係がありません。

なお、保険料については「在籍出向」の場合、出向先事業場では賃金の支払いがありませんので、出向元事業主から支払われた賃金を出向先事業場で支払ったものとみなし、労災保険に係わる賃金総額に含めて申告納付することが必要です。

ただし、雇用保険の場合は、主たる雇用関係についてのみ被保険者として取り扱いますので、身分関係と賃金関係が出向元事業場となる「在籍出向」では、被保険者の手続および保険料の申告納付は出向元事業場で行うことになります。

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July 03, 2005

労災保険と健康保険の落とし穴

事業主が仕事中にケガをした場合、労災保険と健康保険のどちらの保険制度で治療を受けることができるでしょうか?

1.仕事中のケガだから労災保険
2.労災保険は従業員に適用される保険だから健康保険
3.保険は使えない

と、いろいろな答えが出てくるでしょう。

事業主が仕事中にケガをした場合、原則として保険制度は適用されず、治療費用は全額事業主個人が負担することになります。

なぜこのようなことになってしまうのか?これが労災保険法と健康保険法の落とし穴といえます。

それぞれの保険は次のように規定されています。

【労災保険】

労働者の業務上または通勤時の労災事故ついて所定の給付を行い、保護することを目的とした制度です。このため、法人の事業主および個人事業主は、原則として被保険者になれないと規定しています。
ただし、一定の要件に該当する事業主は、その事業所の労働者が労災保険に加入していれば、特別加入という方法で労災保険に加入することはできますが、従業員が1人もいなければ、当然特別加入はできません。

【健康保険】

被保険者および被扶養者の業務外の事由によるケガなどに保険給付を行うことを目的としています。 “業務外の事由”と定義されているので、仕事中のケガは保険給付の対象外となります。

よって、事業主の仕事中のけがについては、どちらの保険も適用されず、治療費用は全額自己負担ということになってしまうのです。

ただし、

【個人事業主の場合】

国民健康保険に加入することになりますので、業務上外に拘わらず給付が受けられることになります。
国民健康保険は業務外の傷病のみに適用するという規定がなく、被保険者(老人保健法の対象者を除く)の疾病、負傷について給付すると規定されているだけです。

【法人の事業主の場合】

もし、事業主が、強制適用を無視して健康保険に加入せず、国民健康保険を続けていたならば、仕事中の災害でも無条件で給付が行われていたことになります。
積極的に法律を遵守した事業主は保険が使えず、法律を無視して適用しない事業主は保険が使える、という矛盾が発生します。

そこで、厚生労働省は平成15年7月1日に通達を出しました。
法人の代表者等に対する健康保険の適用について

「被保険者が5人未満である適用事業所に所属する法人の代表者等であって、一般の従業員と著しく異ならないような労務に従事している者については、その者の業務遂行の過程において業務に起因して生じた傷病に関しても、健康保険による保険給付の対象とすること。」

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July 02, 2005

過労による「うつ病」の労災申請

従来は、過労による精神障害や自殺については、明確な基準がなかったため、申請しても、労災と認定されない場合が多かったのですが、厚生労働省(当時は労働省)は、平成11年9月に「心理的負荷による精神障害等に係る業務上外の判断指針」を発表し、認定基準を定めました。

これは、業務上のストレスや過労で精神障害を起こしたり、自殺にまで至るケースが近年顕著に増加しているため、労災請求事案の処理を迅速・適正に処理するための判断のよりどころとするためです。

●「指針」による業務上外の判断要件
①精神障害を起こしていた
②発病前の半年間に業務による強いストレス(心理的負荷)があった
③業務以外のストレスや個人的な事情で精神障害を発病したとは認められない
の3点です。

これらのいずれにも該当する精神障害は業務上の疾病として扱われます。業務によるストレスの強度の評価に当たっては、ストレスの原因となった出来事及びその出来事に伴う変化等について総合的に検討することとされ、そのための指標として、31のチェック項目から成る「職場における心理的負荷評価表」に定められました。

●職場における心理的負荷評価表
1.大きな病気や怪我をした
2.悲惨な事故や災害を体験した
3.交通事故を起こした
4.労災の発生に直接関与した
5.重大な仕事上のミスをした
6.事故の責任を問われた
7.ノルマ未達成
8.新規事業や再建担当になった
9.顧客とトラブルがあった
10.仕事内容・量の大きな変化があった
11.勤務・拘束時間が長時間化した
12.勤務形態に変化があった
13.仕事のペース、活動に変化があった
14.職場のOA化が進んだ
15.退職を強要された
16.出向した
17.左遷された
18.不利益扱いを受けた
19.転勤した
20.配置転換があった
21.自分の昇格・昇進があった
22.部下が減った
23.部下が増えた
24.セクハラを受けた
25.上司とトラブルがあった
26.同僚とトラブルがあった
27.部下とトラブルがあった
28.理解者が異動した
29.上司が変わった
30.昇進で先を越された
31.同僚の昇進・昇格があった、の31項目です。

企業には職場環境の安全を図る義務、いわゆる安全配慮義務があり、民法第415条は、企業側に義務違反がある場合には損害賠償責任を負うこととしています。

特に最近では業務による心理的負担を原因とした精神障害がクローズアップされており、その結果として自殺に至った場合の企業の健康配慮義務違反、損害賠償責任を認める判決も増えています。

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June 12, 2005

救助で死亡の会社員に労災認定

海外出張中、川におぼれた女性を助けようとして死亡した会社員の労災を認めなかったのは不当だとして、会社員の妻が不服を申し立てた再審査請求について、労働保険審査会は11日までに「業務と因果関係があるとみるのが相当」として、労災と認める逆転裁決を出しました。

代理人の弁護士や裁決書によると、この男性は、1997年7月、中国福建省に出張。砂の採取などのため川に入っていた際、近くで若い中国人女性2人が深みでおぼれているのを見つけ、救助しようとしたが、男性自身がおぼれて死亡。女性2人は自力で岸にたどり着き、その後、所在が分からなくなったそうです。

業務との関連がはっきりしない救助行為を労災と認めたケースは極めて少なく、被災者を救済する画期的な判断だといえます。

【木更津労働基準監督署・千葉労災保険審査官】
おぼれた女性は男性の業務とは無関係で上司の業務命令もなく、救助に向かった時点で業務が中断し、私的な善意の行為に移ったとして、それぞれ請求を棄却。

【労働保険審査会】
(1)一緒にいた社長も救助に参加(2)発生現場が同社の子会社が借用し遊戯施設を営業している敷地内(3)おぼれた女性が客である可能性があり事故防止の必要性があった-と指摘。救助行為は「善意や私的なものではなく、業務と密接に関係する」と判断。

救助活動中の事故で労災が認められたケースとしては、01年に東京都新宿区のJR山手線新大久保駅で、線路に転落した男性を助けようとして韓国人留学生と横浜市のカメラマンが電車にはねられ、死亡した事故があります。

最近では、JR福知山線の脱線事故で、厚生労働省は、仕事中に現場に居合わせて救助活動にあたった会社員らが、けがや心的外傷後ストレス障害(PTSD)を負った場合、労災保険の申請を積極的に認めていく方針を決めています。

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June 04, 2005

研修医は労働者、最高裁が初認定

1998年8月に急死した関西医科大付属病院の研修医の遺族が、「最低賃金に満たない給料で働かされた」として、同医大に未払い賃金約59万円の支払いを求めた訴訟の上告審判決が3日、最高裁第2小法廷でありました。

●裁判長は
「研修医には教育的側面があるが、病院のため患者の医療行為に従事することも避けられず、労働者に当たる」と判断。
約42万円の支払いを命じた大阪高裁判決を支持、同医大側の上告を棄却。
研修医を「労働者」と認めた最高裁の初判断。

●勤務内容は
平日は午前7時半から午後10時ごろまで採血や点滴を行ったほか、診察を手伝い、週末もしばしば指導医とともに出勤。病院からは奨学金名目で月額6万円が支払われていた。
病院が定めた臨床研修プログラムに基づき、指導医の指示で医療行為をしており、(病院側は)給与として源泉徴収までしていた。

●過労死認定
北大阪労働基準監督署は2002年、過労死だったとして労災認定済み。
遺族が「過労死」を主張して同医大に損害賠償を求めた別の訴訟では、1、2審とも過労死と認め、医大側が上告しなかったため、約8400万円の賠償命令が昨年確定。
私学教職員共済に加入させる義務を怠ったとして、同医大に遺族年金分約870万円の支払いを命じた判決も、5月に最高裁で確定。

●研修医の労働者性(労働者性を肯定する判断)
1.指導医の診察の補助、指導医からの指示に基づいて検査の予約等を行う。
2.指導医と研修医との間に業務遂行上の指揮監督関係が認められる。
3.研修が義務づけられている時間帯は、 研修医に指導医からの指示に対する諾否の自由が事実上与えられていない。
4.場所的・時間的拘束性が認められる。
5.支給を受けた6万円は給与所得として源泉徴収されている。

以上のことから総合的に判断すると、労働者性が認められます。

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June 02, 2005

不法残留外国人労働者の労災認定

土木作業員のバングラデシュ人男性が仕事中に心筋梗塞になったのは過労の結果として、相模原労働基準監督署が労災認定。 http://www.jil.go.jp/kokunai/mm/gyousei/20050527.htm

出稼ぎの外国人労働者は過酷な労働環境に置かれることが多いが、申請は少ない。特に心臓病での労災認定は極めて珍しい。

【経緯】
1.本国に仕事がなく、家族を食べさせるために来日。ビザの期限が切れたが、そのまま土木会社で働いていた。

2.2003年 3月、庭石の撤去作業中に胸が痛くなり2日後に入院。

3.会社社長は労災申請を拒み、解雇を言い渡した。

4.不法残留でも労働者であれば労働関係法の適用対象となることから、外国人労働者問題を扱う労組に相談し労基署に申告。

【労災認定】
月100 時間を超える残業を重視し、労災認定。
ノートに出勤、帰宅時間をつけていたことも決め手。
今年3月認定され、治療費や休業補償を受けた。


脳・心臓疾患の労災認定基準

発症前1か月間におおむね100時間又は発症前2か月間ないし6か月間にわたって、1か月当たりおおむね80時間を超える時間外労働が認められる場合は、業務と発症との関連性が強いと評価できる。

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